2024年度孤立・困難抑止部門賞

赤ちゃん食堂
特定非営利活動法人徳島の子育てに伴走する会マチノワ
社会福祉法人悠林舎 沖浜・田宮シーズ認定こども園
NPO法人とこども園の2者が連携してこども園を会場に保育士や管理栄養士とともに離乳食期の親子が安心して食事を楽しめる「赤ちゃん食堂」を開催。無料で離乳食とおとなの食事を提供し、育児相談や親同士の交流を通じて親の負担や孤立を軽減を目指す。離乳食づくりの参考にもなり、親子の笑顔が広がる時間となっている。
団体紹介
特定非営利活動法人徳島の子育てに伴走する会マチノワ
「孤立孤独」「産後うつ」に悩み、頼れる人や人とのつながりが少ない中で育児をする家庭が多くあることを問題提起し、全ての家庭が安心して過ごせる居場所を開いている。
人の輪が広がることより、子育て環境を豊かにし、地域で見守り、子どもや家族を育む、コミュニティ「街の輪=マチノワ」を創ると考え活動を行っている。
社会福祉法人悠林舎 沖浜・田宮シーズ認定こども園
幼保連携型認定こども園として、「やってみようとするこども」を目指すこども像として日々の教育・保育に取り組んでいる。ICT化や配置の充実など働きやすい職場づくりが評価され徳島県「働き方改革モデル福祉事業所」に認定された。徳島で安心して子育てしたいと思える環境づくりを目指して、地域の子育て支援活動にも力を入れている。
なぜこの取り組みを始めたのか?
以前から居場所に集まる産後の親たちから「赤ちゃんが離乳食を食べてくれない」「誰かと話しながらゆっくり食事がしたい」という声が多く寄せられていました。
核家族化や高齢出産、共働き、地域のつながりの希薄化、産婦人科の減少などの影響により、日常的に頼れる人がいない、同じ時期に出産した人とのつながりがない、子育ての方法がわからない、自分の食事もままならない――そんな現状の中で、不安や悩み、負担感を一人で抱える親は少なくありません。
赤ちゃんの「食や成長」を育むだけでなく、親が安心して食事できる時間をつくりたい。授乳や夜泣きなどで、寝不足や疲労をためやすい親にしっかり栄養をとってほしい。その想いが重なり、NPO法人とこども園の2者が連携して、赤ちゃん食堂を始めました。
食事提供とともに、保育士や看護師などによる育児相談や親同士の交流の機会も重ねることで、親子の笑顔とつながりを広げる居場所づくりを目指しています。
活動内容と効果
本取り組みでは、NPO法人とこども園の2者が連携し、2か月に1回、離乳食期の乳幼児とその保護者を対象にした「赤ちゃん食堂」を開催しています。
会場はこども園。調理室で管理栄養士が用意したこどもの離乳食(中期~後期)とおとなの食事を無料で提供し、保育士や看護師が赤ちゃんの食事をサポートします。親は安心して座って栄養たっぷりの食事がとれる時間を過ごすことができます。
参加者は毎回4組限定とし、少人数制でゆったりとした雰囲気の中、専門職との育児・栄養相談、参加者同士の交流が自然に生まれています。「保育士がそばにいて安心できた」「離乳食のメニューや味、量が参考になった」「300円程度の料金がかかってもいいから毎週参加したい」といった声が届いています。
また、離乳食がうまく進まない、食べてくれないといった悩みへの具体的なヒントも得られる場として機能しており、参加者の不安軽減・自己肯定感の回復・家庭での実践力の向上など、多面的な効果が生まれています。保育士や栄養士が伴走しながら、親の声に耳を傾けることで、子育て家庭の悩み、不安、孤立を解消する場となっています。
そして、また「赤ちゃん食堂」を利用した方々の声を反映し、徳島県内の2事業者で新たに 2 カ所の赤ちゃん食堂が開設されました。これにより地域のサポートが広がり、子育て環境の向上につながっています。

▲保育士による離乳食の提供

▲赤ちゃんの隣でお母さんも一緒にいただきます

▲みんなでいただきます!

▲みんなで食べるとごはんがすすみます

▲保育士による絵本時間

▲参加者同士交流したり、離乳食の進み具合や育児のことを保育士からヒアリング。
これからの展望
利用者からは「週1回くらい通いたい」「保育士などの専門職がそばにいて安心できた」といった声が寄せられており、ニーズの高さを受け止めながら、今後は、赤ちゃん食堂の開催頻度を、これまでの2か月に1回から月1回へと増やしていくために、運営体制の強化を図ります。
さらに、徳島市内にとどまらず、同様の課題を抱える他地域にもこの活動を広げていきたいと考えています。赤ちゃん食堂をはじめとする居場所づくりのノウハウを活かし、NPOとしての強みを活かした「居場所プロデュース(コンサルタント)」にも着手。地域の実情に合わせた伴走支援の体制を、各地の担い手とともに構築していくことを目指したいと思っております。
今後も、地域住民、専門職、行政、企業など多様な主体と連携しながら、孤立のない子育て環境、そして誰もが安心して暮らせる地域社会の実現に向けて、持続可能な仕組みの構築と発展的な事業展開を進めていきます。
このような取り組みを実施される方へのメッセージ
赤ちゃんとの暮らしは、愛おしくかけがえのない一方で、慣れない育児や孤独感、不安を抱えやすい時期でもあります。特に離乳食期は、食べてくれない、作り方がわからない、自分の食事をとる余裕もないなど、多くの葛藤や疲労が積み重なりやすい時期です。
「赤ちゃん食堂」は、ただ食事を提供する場ではなく、親が安心して座り、話し、笑い合い、そして「一人じゃない」と実感できる小さな居場所です。その姿をこどもたちが感じ、安心へとつながります。専門職とつながり、同じ立場の人と出会い、悩みを共有することが、親の回復や自信、親子の愛着につながっていく場になります。
私たちが取り組んだ赤ちゃん食堂のように、こども園と連携するような形もあれば、今実施されている子ども食堂にレトルトのベビーフードを置くだけでも、赤ちゃん連れの方にとって大切な居場所になります。特別な準備がなくても、迎え入れるまなざしと、小さな工夫でその地域の親子の支えになります。
「産後の恨みは一生」と言われることもありますが、その時に受けたあたたかい出会いや体験もまた、一生の宝物になります。実際に、1人目の育児の際に通ってくださった方が、2人目の出産後に元気な姿で「ただいま」と戻ってきてくれる場面もありました。「おかえり」と迎えられる関係性があること、それこそが私たちにとって何よりの喜びです。
私たちがお手伝いできるのは、ほんの少しの時間と空間かもしれませんが、居場所を通じて誰かの人生がすこしだけ豊かになる。そのための一歩を、ぜひあなたの地域でも踏み出してみてください。

審査員総評

- 審査員長:山縣 文治
- 大阪総合保育大学 特任教授
- 子ども食堂はかなり普及しているが、「赤ちゃん」に焦点を当てた活動は全国的にも限られている。子ども食堂の場合、子どもに対する直接的な支援が中心となるが、赤ちゃん食堂の場合、母子支援の活動となる可能性が高く、母親の時間的、精神的支援となる。

- 審査員:島田 妙子
- 一般財団法人児童虐待防止機構オレンジCAPO 理事長
- 子育ての情報が多くなったことで、焦りや不安も多くなってきている親が多いと聞きます。子育ての悩みを聞いてもらいながら、悩みの多い離乳食が無料でいただけるのはいいですね。代表の方の思いに感銘を受けました。

- 審査員:LICO
- 作家・ブロガー・子育てアドバイザー
- 些細なことが気になってしまう離乳食の時期に気軽に相談できたり、お母さん自身がゆっくり食事を取れる場所があると助かると思います。食事って生きるエネルギー。食事への不安が軽くなる場所やサポートは親子を救うと思います。

- 審査員:竹田 こもちこんぶ
- 5児の兄弟の子育てネタでTikTok・執筆など多方面で活躍中
- ひょっとすると最も迷宮入りしやすい時期かもしれない「離乳食期」。子育て中の親が陥るであろう暗黒の離乳食時代に無料で離乳食を提供してくれる「赤ちゃん食堂」ですって!出口が見えない穴に差す希望の光。赤ちゃんと外に出て、誰かとおしゃべりしながらご飯を食べたら、きっと多くの不安は消えていくに違いない。進め、赤ちゃん食堂!!

- 審査員:安木 麻貴
- (一社)日本子育て制度機構 育児制度アドバイザー しんぐるまざあず・ふぉーらむ・神戸ウエスト代表
- 子育てを一緒に頑張った仲間たちはまさに戦友・・・。育休を終えて仕事に戻る人が増えてくる中でもっと地域のコミュニティーの必要がさらに高まってくると思います。こちらを巣立った方がグループとなってサポート側になるのも期待できますね!