2024年度期待の新制度部門賞

温泉旅館で産後ケア事業
産前産後ケアハウスはぐはぐ合同会社
鳥取県米子市の皆生温泉旅館で平日の宿泊客がいない時間帯を活用し、0歳児とその母親を対象にした産後ケアを実施。母は個室で休息し、昼食、温泉が利用できる。
旅館の落ち着いた雰囲気の中で母親は育児の疲れを癒し、助産師による育児相談や心身のケアを受ける。地域資源を活用した産後ケアとして、県内外への拡充を目指す。
団体紹介
助産師が常駐する「0歳児を連れた親子がくつろげるラウンジを併設した産後ケア施設」。周辺全11市町村から産後ケア事業の委託を受け、産後ケアを行う。ラウンジではヨガなどのイベントを毎日のように開催し、母親達のコミュニティの場になっている。産後ケアの受け皿をさらに増やすために温泉旅館を使用した産後ケアを実施。
なぜこの取り組みを始めたのか?
代表である助産師の宮田は産科クリニックに勤務した後、看護学校の教員を務めた。学生の実習指導で産科を回った際に、コロナ禍で母親学級がないまま出産した母親達が妊婦同士集う場所もなく、出産後家に帰り孤独に育児をしている状況を目の当たりにした。「病院を受診するほどでもないけど、他の人はどうしているのだろうか聞きたい。育児のことを誰かと話したい。」と願う母達がつながることができる場所を作りたいと思ったことがきっかけ。
同じく代表の上杉は自身の子育て経験から、子連れで気軽に行くことができる場所が少ないことを感じており、姉妹で開業する運びとなった。
産後ケアでは「児を預けて休息したい」と願う母達のために児は助産師や保育士が預かり、母親達に「ひとり時間を過ごしてもらうこと」を大切にしている。
普段24時間休みなしの母にとって、自分だけの部屋で誰にも邪魔されずに自分の好きなことをして、ゆっくりと昼食を摂り、仮眠する時間は貴重であり、そのような自分自身を労わる時間を持つことで、児をより愛おしく感じ、心身ともに余裕を持つことができると考える。
活動内容と効果
妊婦に対する母親学級。父親や祖父母に対しても沐浴などの教室を実施している。
産後ケア事業では育児相談、乳房ケア、授乳や離乳食の相談、個室で仮眠、入浴、児の沐浴などを行う。オプションメニューでアロママッサージや骨盤軸整体を受けることもできる。
産後ケア事業は鳥取県は自己負担金なしで、1歳の誕生日の前日までに7回程度利用できる。産後ケア事業の他に0歳児の一時預かりも実施。産後ケアの受け皿はまだ不十分で、利用したい母に対して十分ではない。
施設の近くには皆生温泉があり、温泉旅館を利用した産後ケアも始めた。旅館にとっては平日の日中の普段使わない時間帯の利活用となり、利用した家族が今後お祝いの席などでの利用に繋がることも期待される。このような取り組みが広がることで温泉地域の活性化にもつながる。

▲皆生温泉海潮園での昼食風景

▲皆生温泉海潮園でのリトリートヨガの様子

▲育休復帰前応援ランチ会イベント

▲ランチを作るキッチンスタッフ

▲はぐはぐ施設全景

▲お見送りの様子
これからの展望
産後ケアのさらなる拡充を目指し、契約外の市町村で産後ケアを実施したり、鳥取県内の様々な温泉施設を利用した産後ケアやイベントの開催を計画。子育て世帯向けのイベントも構想。
このような取り組みを実施される方へのメッセージ
産後ケアを始めとした、子育てのスタートである妊娠期や0歳の大切な時期を支える取り組みは、現代の社会において必要不可欠だと考える。
日本のどこにいても当たり前に産後ケアを受けられ、子育てする母親やその家族がつながることができるような場所作りを皆でしていきたい。

審査員総評

- 審査員長:山縣 文治
- 大阪総合保育大学 特任教授
- 温泉旅館の活性化にもつながる極めてユニークな取り組みである。同一建物内で、専門職による一時預かりなども行っており、母親が温泉でゆっくりとリラクゼーションできる工夫も面白い。産後ケアに限らず、他の事業での展開の可能性も見込める取り組みである。

- 審査員:島田 妙子
- 一般財団法人児童虐待防止機構オレンジCAPO 理事長
- 心と身体を温めることができる場所が温泉というのが素晴らしい。産後うつの未然防止になると思います。しかも無料なのはありがたいですね。まさに地域の発展にもつながると思います。温泉施設での産後ケアという発想に拍手です。

- 審査員:LICO
- 作家・ブロガー・子育てアドバイザー
- 産後一人でお風呂にもゆっくり入れない大変な時期に、こうして一人の時間とリラクゼーション・相談ができるなんて最高だと思います。地域との繋がりもできるし、旅館への良い印象が残ればその後お客さんとして訪れてくれるかもしれないし、双方に良い効果がありそうです。

- 審査員:竹田 こもちこんぶ
- 5児の兄弟の子育てネタでTikTok・執筆など多方面で活躍中
- 今や全国各地にどんどん広がる産後ケアハウス。それほど必須な施設であることは間違いないけれど、ケアを必要とする親子の人数に対して場所が追いつかない!という全国の悩める産後ケアに取り組む人々に新たな「可能性」を見せてくれた。場所は何もそれ専用じゃなくったっていい!地域と手を取り合っているところが輪をかけて素敵。

- 審査員:安木 麻貴
- (一社)日本子育て制度機構 育児制度アドバイザー しんぐるまざあず・ふぉーらむ・神戸ウエスト代表
- 観光だけでなく、地域資源としても温泉を活用されている点が良いですね!地域の振興とつながりが充実してくることで住みやすい街にもなりそうですし、若者も増えそうです。こういうことをされていると聞くと私もこちらの温泉に泊まりに行きたい!